疫学文献を読んでいると、両方の尺度が掲載されていることがあり、どっちがどういう意味だっけ?となることがあるので、まとめました。
リスク比(相対リスク)とは
リスク比は英語でrisk ratio, relative riskと言い、RRと略されます。
分割表で、調査期間中に発生したある症例の発症について考えます。
| 暴露 | 非暴露 | 合計 |
症例 | A | B | A + B |
対象 | C | D | C + D |
曝露群の中で症例を発症するリスクは、母数分の症例数であるA/(A+C)で定義されます。一方、非曝露群で症例を発症するリスクは、B/(B+D)となります。
リスク比はこれらの比をとった、
(曝露群で症例を発症するリスク)/(非曝露群で症例を発症するリスク)
= [A/(A+C)]/[B(B+D)]
のことを指します。
リスク比は曝露と非曝露による影響の違いを直感的に理解できる一方で、比を取っているためにリスクの絶対値の情報がなくなっていることに注意が必要です。
たとえば、曝露群A+C=100、非曝露群B+D=100のとき、(A,B)の組み合わせが(2,1)、(10,5)、(80,40)のときを考えます。A=2とA=80を比較すると、曝露の影響に40倍も違いがありますが、リスク比を計算するとどの組み合わせもRR = 2.0となり、違いの情報が消えてしまいます。
リスク差(寄与リスク)とは
リスク差は英語でrisk differenceと呼び、RDと略されます。上記の表では、曝露群の中で症例を発症するリスクA/(A+C)と、非曝露群で症例を発症するリスクB/(B+D)を考えました。
これらを引き算したもの、すなわち、
(曝露群で症例を発症するリスク)-(非曝露群で症例を発症するリスク)
= [A/(A+C)]-[B(B+D)]
のことをリスク差と呼びます。
リスク差は、リスクの値をそのまま使って引き算しているので、リスクの大きさの情報が残っています。上記と同様に、曝露群A+C=100、非曝露群B+D=100のとき、(A,B)の組み合わせが(2,1)、(10,5)、(80,40)のときを考えます。このときのリスク差はそれぞれ、
RD = 2/100 – 1/100 = 0.01
RD = 10/100 – 5/100 = 0.05
RD = 80/100 – 40/100 = 0.4
となり、リスクの大きさによってRDの値も変化することが分かります。
上記のリスク比、リスク差は、累積罹患率を前提に説明しました。累積罹患率は、ある期間中に発生した症例数を、観察開始時の観察人数で割って算出します。
一方で罹患率は、ある期間中に発生した症例数を、観察人時(観察期間の合計)で割って算出します。稀な疾病に対して用いられることが多いです。
罹患率は英語でincident rate、略してIRと呼ばれますが、同様に比と差の表現があります。罹患率比はincident rate ratio, IRRと言い、罹患率差はincident rate differenceと言いますので、併せて覚えておきましょう。
まとめ
リスク比とリスク差の違いは、リスク比は曝露と発症の関連性を表す指標であり、リスク差はその関連の大きさを表しています。リスク比とリスク差、どちらの情報も必要だということが分かりました。